はじめまして、旅する保険プロです。
「大切な愛車に傷がついたときのために、高い保険料を払ってでも車両保険はつけておかなきゃ安心だ」
そう考えて、毎年の自動車保険に車両保険をセットしている方はとても多いです。
しかし、ここに自動車保険の中で最も現場がピリピリし、時には保険会社と契約者の間で「本当にその事故ですか?」と確認が入る最大の罠が隠されています。
せっかく高いお金を払って加入しているのに、いざ事故の請求をしたとき、なぜ現場の査定はあそこまで慎重なのか。パンフレットの綺麗事ではない、査定現場のシビアな裏事情をお話しします。
■ 査定員はどこを見て「矛盾」を見抜くのか?
車両保険、特に「自損事故(電柱にぶつけたなど)」や「原因があやふやな傷」の請求において、保険会社の事故査定員(アジャスター)の目は信じられないほど細部まで見ています。なぜなら、ここは一番「間違いや勘違い、不正な請求」が混ざりやすい場所だからです。
よくあるのが、「本当は数ヶ月前に狭い道でこすった古い傷」と、「昨日うっかりぶつけてしまった新しい傷」を、うっかり混同して1回の事故としてまとめて綺麗に直そうとしてしまうケースです。
契約者は「これくらい大丈夫だろう」と思うかもしれません。しかし、プロの査定員は騙せません。彼らは傷の断面のサビの具合、付着している塗料、バンパーの凹み方の角度を細かく分析します。
「この傷のつき方だと、電柱ではなくブロック塀ですよね?」「このサビの進行具合は、昨日の事故では絶対に発生しません」と、科学的に矛盾を見抜くのです。
もし申告と事実に大きなズレや疑わしい点があると、保険会社からは電話で厳しい確認が入るだけでなく、後から「事故状況説明書」などの書面で、当日の動きや傷の位置の整合性を厳しく証明する署名を求められることになり、手続きは一気にストップしてしまいます。
■ 当て逃げの補償に潜む、査定現場のピリピリした裏事情
「スーパーの駐車場で当て逃げされた」というケースも、現場で確認が長引く原因の筆頭です。
最近の自動車保険では、いわゆる「エコノミー型(車対車+限定)」であっても、当て逃げなら保険金が出るように改定された商品が増えています。一見すると安心ですが、だからこそ保険会社は異常なほど警戒の目を強めているのです。
なぜなら、「エコノミー型で入っている人が、自分で電柱や壁にぶつけてしまった(=本来は1円も出ない自損事故)ときに、保険金を騙し取るために『駐車場で当て逃げされた(=エコノミーでも出る相手のある事故)』と嘘の申告をする」というケースが後を絶たないからです。
そのため、アジャスターは「自損事故の擦り傷」と「相手の車から当てられた傷」のわずかな違い(塗料の付き方や凹みの角度)を科学的に徹底調査します。いくら保障対象が広がったとはいえ、警察への即座の届出はもちろん、ドライブレコーダーの映像など「客観的な証拠」が出せないと、嘘を疑われて何週間も支払いが保留される過酷な現実があるのはこのためです。
■ 「使わない方が得」という冷徹な計算式
そして、苦労して事故が認められたとして、最後に待っているのが「等級ダウン」という冷静な計算式です。
車両保険を使って車を直すと、翌年の保険料の等級が「3等級(内容によっては1等級)」下がります。さらに「事故有(じこあり)係数」というペナルティが数年間続くため、更新後の保険料が跳ね上がります。
現場でよくある悲劇が、20万円の修理代のために車両保険を使ったら、翌年からの数年間の値上がり分の合計が「25万円」になり、結局5万円も大損してしまったというケースです。
これを知ったお客様はみな、「これじゃあ、何のために毎月高い車両保険の特約料を払ってきたんだ…」と愕然とされます。
■ 車両保険は「直せるか」ではなく「生活が破綻するか」で決める
30年の現場経験から、私がたどり着いた車両保険の正しい引き算の定義はひとつです。
「小さな傷や、手元の貯金の中で直せるレベルの修理(数十万円程度)のために、車両保険は安易に使うな」ということです。
車両保険が本当に意味を持つのは、全損(車が全焼した、完全に大破した)になって、買い直すのに数百万円の現金が一瞬で吹き飛び、生活や仕事が立ち行かなくなるような「致命傷」の時だけです。
「入っているから使う」のではなく、使うことで未来の自分がどれだけ損をするかを冷静に天秤にかけること。
営業マンの「車を守るために必要です」というトークを鵜呑みにせず、自分の貯金額と来年の保険料を見比べる大人の選択をしていきましょう。

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