はじめまして、旅する保険プロです。
「もしも隣の家が火事を起こして、自分の家まで燃え移って全焼してしまったら……。当然、火元である隣の人に新しい家を建て直す費用を全額弁償してもらえますよね?」
現場で30年、多くのお客様とお話ししていると、このように考えている方に本当によくお会いします。
自分が火元ならあきらめもつくけれど、もらい火で我が家を失ったのだから、相手に責任をとってもらうのは当たり前。真面目で、常識的な人ほどそう信じ込んでしまっています。
しかし、ここには日本の法律が定めた、誰もが耳を疑うような「現実」があります。
結論から言うと、隣の家の火事であなたの家が灰になってしまっても、「法律上、隣の人からは1円も弁償してもらえない可能性が極めて高い」のです。
今日は、他人のせいで我が家を失ったときにあなたが路頭に迷わないための、プロが語る「本当のリスク管理」をお話しします。
■ 明治時代から続く「失火責任法」というルール
なぜ、もらい火なのに相手に損害賠償を請求できないのでしょうか。
理由は、明治32年に制定され、今もそのまま生き続けている「失火責任法(しっかせきにんほう)」という法律があるからです。
民法の基本ルールでは、他人に迷惑をかけたら弁償するのが原則(不法行為責任)なのですが、この失火責任法は「火災の場合だけは、うっかり火を出してしまった人に重大な過失(重過失)がない限り、損害賠償をしなくてよい」という特例を認めています。
昔の日本は木造建築ばかりで、一度火が出たら町中が燃えてしまうことも珍しくありませんでした。もし「燃えた家をすべて弁償しろ」と言われたら、火元の人も破産して一家離散してしまいます。そのため、「お互い様だから、火元の人にそこまでの重荷を負わせるのはやめよう」として作られたのがこの法律です。
■ どこからが「重大な過失(重過失)」になるのか?
では、どんな場合ならお隣さんに弁償してもらえるのでしょうか。それは、裁判などで「重過失(わずかな注意さえしていれば防げた、ほとんど故意に近いほどの不注意)」と認められたときだけです。
実際の過去の裁判例でも、以下のようなケースが「重過失」と認定されています。
・天ぷら油を入れた鍋を火にかけたまま、その場を離れて外出してしまった(東京地裁判決など)
・点火したストーブのすぐ近くに、布団などの燃えやすいものを置いたまま寝てしまった(最高裁判決)
・たばこの吸殻が完全に消えたかどうかを確認せず、そのままゴミ箱に捨てて放置した(東京高裁判決)
逆に言えば、「料理中に少し目を離した隙に引火した」とか「コンセントのトラッキング現象で火が出た」というような、通常の「うっかりミス」による火事であれば、法律上はお隣さんに弁償を求めることが一切できないのです。
■ 裁判で勝っても意味がない?もらい火の「冷酷な現実」
ここで、多くの方が気づいていない、実務上のさらに恐ろしい現実をお話しします。
「じゃあ、お隣さんが天ぷら油を放置したような『重過失』だったら、裁判で勝って全額弁償してもらえるから安心だね」と思われるかもしれません。
しかし、現実はそう甘くありません。
もし裁判で「お隣さんに全額の賠償責任がある」という100%勝訴の判決が出たとしても、そのお隣さん自身に、家を建て直すための数千万円という「現金」がなければ、結局は1円も回収できずに終わってしまいます(判決が無駄になってしまうのです)。
さらに恐ろしいことに、重過失で火事を起こした本人は、自分が加入している火災保険や個人賠償特約の約款にある「重大な過失による損害は保険金を支払わない」という免責条項に引っかかってしまいます。つまり、お隣さんの保険会社からも1円もお金が出なくなってしまうのです。
火元の人も家を失って一文無し、保険も使えない。そんな相手から、どうやって数千万円を取り戻すのでしょうか。現実的には不可能です。
つまり、もらい火で家を失ったとき、あなたを本当に救ってくれるのは、お隣さんの誠意でも、裁判の判決でも、国でもなく、「あなた自身が最初から入っていた火災保険」だけなのです。
■ 保険は「自分のため」に引き算して整える
「うちはタバコも吸わないし、オール電化だから火災保険は最低限でいいや」
他の代理店やネット通販などでなんとなく手続きをして、家財の補償をゼロにしたり、建物の補償額をギリギリまで削ってしまったりしている方の声をよく耳にします。しかし、それは「自分の家から火を出さない自信」であって、「お隣さんから飛んでくる火」や「相手が払えないという現実」への備えが完全に抜けてしまっています。
本当に正しいリスク管理とは、「自分が気を付けるから大丈夫」で終わらせるのではなく、「他人の不注意によって、自分の力ではどうしようもない大損害を被り、しかも相手からは1円も回収できないリスク」をあらかじめ計算に入れておくことです。
無駄な特約や、過剰な補償は限界まで引き算していくべきです。
けれど、もらい火によって大切な家族が住む場所を失うという「最大のリスク」をカバーする建物の保障や、一瞬で失ってしまった生活必需品を買い直すための家財の保障だけは、絶対に削ってはいけません。
だからこそ、私たちがお客様にプランをご提案する際は、こうした「実務の厳しい現実」までしっかりとお伝えした上で、自分の身を確実に守れるベースをお勧めしています。
もし、ご自身の自動車保険をネットや他の窓口などでなんとなく選んで入った記憶がある方は、今すぐ証券を開いて「弁護士費用特約」の文字が入っているかチェックしてみてくださいね。

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