【連載】旅する保険プロになるまで 第6話:【完全勝利・旅立ち編】〜「もう明日から来なくていい。鍵を返しなさい」セコい社長を静かに撃破し、旅立つ〜

12月末の仕事納めの日、私は社長に退職を通告した。

そして年が明け、1月8日の仕事始めの日。

年末年始の間、浅はかな悪知恵を巡らせていたであろう社長は、開口一番こう言い放った。

「もう明日から会社に来なくていい。鍵を返しなさい」

「自分から辞めるんだから、給料は減らすからな。会社からお客様への挨拶の手紙も出さないぞ。辞める挨拶状は全部自分個人で出せ」

年明け早々、鍵を取り上げ、最後までお客様への責任を投げ出し、お金に汚い嫌がらせを重ねてくる、あまりにも器の小さな社長。

怒る価値すら感じなかった。感情的に口論したところで時間の無駄だ。

「今まで長い間、大変お世話になりました。ありがとうございました」

心の中では1ミリも思っていなかったが、私は大人として筋を通した挨拶を返し、綺麗に鍵を戻して会社を後にした。

しかし、鍵を返したことで事務所に入れなくなり、これまで使っていたシュレッダーやカラープリンター、その他の細かい備品すら一切使えなくなった。私はお客様への挨拶状の準備や業務のために、必要な機材や備品をすべて自分の身銭を切って買い揃えた。

さらに、社長の予告通り、1月から3月までの給料は毎月10万円近く不当に減額されていた。

■「妻に余計な心配やショックをかけたくない」

そう思った私は、給料が減らされていることを妻には伏せ、裏で自分の貯金から毎月10万円をこっそり補填し、これまで通り変わらない生活費を渡し続けた。

そして、不当に引かれ続けた逃れようのない証拠がすべて揃うその時を、静かに待ったのだ。

■ 3月25日の給料日、決定的な証拠を手にして「労基署」へ直行

3月31日の正式な退職を目前に控えた、3月25日の最後の給料日。

振り込まれた金額とこれまでの給与明細を揃え、不当減額の動かぬ証拠が完璧に完成した。

「証拠はすべて揃った」

逃れようのない証拠を手にした私は、その足でそのまま労働基準監督署(労基署)へと向かった。

労基署の窓口で、これまでの経緯と、3ヶ月にわたり毎月10万円近く不当に減額された実績、業務上の嫌がらせについて静かに、かつ淡々と事実を伝えた。手元には、完璧な証拠が揃っている。

「わかりました。こちらから会社に指導を行います」

労基署の担当者は力強く頷いてくれた。法律を無視してやりたい放題やってきた経営者親子に、ついに公の正義の鉄槌が下る瞬間だった。

手続きを終えた私は、もうあの泥沼の会社のことなどすっかり頭から追い出し、退職後の解放感を味わうために妻と旅行へ向かった。行き先は福岡と山口だった。

■ 唐戸市場で届いた「完全勝利」の知らせ

山口県下関市、賑わう唐戸市場(からといちば)で妻と美味しい海鮮を味わっていた、まさにその時だった。

ポケットの中でスマホが震えた。画面に表示されたのは、労働基準監督署からの電話だった。

「〇〇さんのお電話でしょうか。労働基準監督署です。会社側に指導を行いまして、不足分(3ヶ月分減額されていた給与)が本日あたりに口座へ振り込まれているはずですので、ご確認ください」

行政の指導が入り、あの往生際の悪い社長もぐうの音も出ず、即座に不当な減額分を全額支払わざるを得なくなったのだ。

退職してから社長とは二度と会うことも、直接話すことすらもなく、公的機関の手によって正当に解決された。

妻を心配させまいと自分の貯金から補填し、裏で淡々と準備を重ねて掴み取った満額回収。

無事戻ってきたそのお金で、唐戸市場の活気の中、妻と美味しい海鮮を食べながら「次はどこへ旅行に行こうか」と笑顔で話し合ったあの時間。

これまでの苦労や怒りが一気に吹き飛ぶほど誇らしく、まさに最高にスカッとした「完全勝利」の瞬間だった。

■ 泥沼を抜けた先、プロとしての誇りを取り戻す旅立ち

こうして私は、長年苦しめられた劣悪な環境と完全に決別した。

感情的に喧嘩をするのではなく、正しい知識と証拠を武器に、淡々と自分の権利を守り抜いた。

自分を安売りせず、誰にも主導権を渡さなかったからこそ、掴み取ることができた勝利だった。

長かった泥沼の時代は、これで終わりだ。

泥水をすすりながらもプロとしての誇りを捨てず、必死に力を蓄えてきた私には、もう恐れるものなど何もなかった。

晴れ晴れとした気持ちで、私はプロの保険マンとしての「本当の人生」を歩み始めるために、新たなステージへと踏み出したのだった。

(第6話・完)

■ 次回予告:完結編・あとがき【見栄を捨てて手に入れた、本当の豊かさ】

「家を買え」「軽自動車はダメだ」——かつて社長が押し付けてきた身の丈に合わない「見栄」をすべて無視し、賃貸と中古軽自動車で実質を選び続けた私の現在地。泥沼を抜けた先で手に入れた最高の環境と、自由で豊かな人生についての最終メッセージ。

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